私は刑事裁判における冤罪について非常に興味があります。 それゆえ学校の政経の資料集の、その話題に関するページをよく見るのですが、そこを読んでいると私の目にある言葉が飛び込んできました。 それは「代用監獄」です。 その政経の資料集では、この「代用監獄」は「冤罪の温床」と表現されています(1。
そこで私は「これは調べてみる必要がある。」と思い、実際に調べてレポートにすることにしました。
主にインターネットを使って代用監獄に関する記事を探し、それを基にレポートをまとめていきます。
ただし、インターネット上の情報の信憑性は書籍に比べると低いため、このレポートにおけるインターネット上の情報は以下のいずれかの条件を満たす場合においてのみ、これを資料として扱うものとします。
以上の方法の下、実際に調べた結果を以下にレポートします。
ここでいきなり代用監獄について書いても、それ以前の基礎知識が分からないとレポートの内容が理解されにくいと思いますので、まずは日本の刑事裁判のシステムを、被疑者の拘束という点に焦点をあてて説明します。
まず「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕」します(2a。
そして逮捕後の取り調べの結果、引き続き捜査が必要だと思われる場合は、「被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続」をします(2b。
これによって被疑者を受け取った検察官は「被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求」します(2c。 そしてその後、公訴をするまで十日間、必要があるときはさらに十日間延長して勾留します(2d。
この公訴の後、公訴された被告人(告訴された被疑者)は裁判所が状況に応じて勾留します(2e。
このように被疑者の身柄が捜査機関から裁判所に移るまでには二十三日間あります。
監獄法によれば「警察官署ニ附属スル留置場ハ之ヲ監獄ニ代用スルコトヲ得」とあります(3a。 先ほど検察官が被疑者を受け取った後、被疑者を勾留しますが、この監獄法における「監獄」には検察官が勾留するための監獄も含まれています(3b。 そのため、本来「容疑者は法務省管轄の拘置所に移され」ますが(1、捜査機関は拘置所を使う代わりに警察の留置場を使うことができるのです。
この拘置所の代わりに使う留置場のことを「代用監獄」と言います。 そして「ごく例外的な場合を除き、全ての被疑者が勾留決定後、捜査を担当する警察の留置場(代用監獄)に連れもどされます」(4a。
では、なぜ本来拘置所に移すはずなのに代用監獄という制度を作ったのでしょうか? これは「1908年に拘置所の不足から暫定的制度として発足し、政府自身その弊害を認めて、『将来は監獄として用いない』ことを約束」して作った制度です(4a。
しかし、後で述べるように「『代用監獄』が、捜査にとって非常に便利なために現在も維持、活用されて」います(4a。
代用監獄は警察の留置場を使うわけですから、「容疑者の身柄を捜査当局の身近な管理のもとに継続して拘禁でき」ます(1。 すると「日本の警察は被疑者の取調べに熱心で、自白を強要しがち」なために「自白を得るために、警察官が被疑者を拘禁している状況を不当に利用することがしぱしばあります」(4a。
例えば「拘置所では、取り調べに使える時間が決められており、食事の時間も、決まった時間に一定時間決められて」います(5。 しかし、代用監獄では「取り調べ時間も食事時間も、管理者である警察の思うがまま」であるために(5、「深夜までの厳しい取調べによって無実の者が自白させられる」という問題があります(4a。 また他にも「起床、洗面、食事、読書、就寝……など、およそ生活のすべてが監視され」(排泄行為も例外ではない)(4b、「警察のつくった内部的な規制が被疑者の生活や行動を厳しく制約し」(室内での立ち歩き・会話・排泄物の水洗など)(4b、「被疑者が自白をしない場合、おうおうにして被疑者に対する処遇は一層悪化し」(4b、「逆に自白をすると、恩恵的によい処遇を受けることもあ」るために(4b、無実の者が自白することがあります。
このように代用監獄によって冤罪が生まれる可能性があるのです。
前項では代用監獄が冤罪を生む可能性があると述べましたが、実際に「自白が代用監獄で強制されたことを裁判所が認めた最近の事例は数多くあります」(4e。
例えば別の窃盗・強姦の二つの事件とともに、「強姦、殺人及び死体遺棄」で起訴され控訴していた「東京高裁昭和62年(う)555号事件」では、この「強姦、殺人及び死体遺棄」事件について
「代用監獄として、寂しい新設の印西警察署を選び、たった一人の状態で留置し、しかも、捜査本部の捜査員から看守者を選任して被告人の留置業務に当たらせ、被告人の留置場内での言動の逐一を捜査上の資料として提供させた上、取調べを行なったのである。
これは、まさに、捜査員が留置業務に当たり、実質的にも留置業務が捜査の一環として行なわれたもので、留置業務は、その独立性がなく、捜査に不当に利用されたといえる。
したがって、このような留置のあり方は、不当なものであり、代用監獄に身柄を拘束して、自白を強要したとのそしりを免れない。」
として、自白の任意性を否定し、「強姦、殺人及び死体遺棄」に関しては無罪を言い渡しています(10。
このような代用監獄は国際的にはどうなのでしょうか?
まずこのような代用監獄の制度は「先進国ではあまり例がない」です(1。
また国際人権規約に違反ではないかとも言われています(4c。 「市民的及び政治的権利に関する国際規約」によれば、「裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるもの」とされています(6。 これは「逮捕、抑留された者が裁判官の面前に連れて行かれた後は再び警察の元には戻らないことを前提にしており、被逮捕者らをすみやかに警察の手から離すことを保障したもの」であるにもかかわらず(4c、代用監獄は「裁判官の面前に連れて行った後も被逮捕者らをひき続き警察の手元に置く」ものであるため明らかに規約に反しています(4c。 そのため国際的にも非難が多く、国際人権(自由権)規約委員会では「多くの委員が、代用監獄を廃止すべきであるとの意見を述べ」(4c、またIBA(国際法曹協会)は「『代用監獄は廃止すべきである』と提言」し(4c、アムネスティ・インターナショナルや国際人権連盟も「日本政府に代用監獄の廃止を勧告」しています(4c。
以上、代用監獄についての問題点を書いてきましたが、では代用監獄を制度を続けるべきだという意見にはどのようなものがあるのでしょうか?
これには大きく二つ挙げられます。
しかしiiについては「法務省が試算した拘置所増設費用には土地の購入費が大部分を占めていますが、実際には既存の法務省の建物や敷地を利用すれぱよいのです。現在でも拘置所の中には遊休施設が多いので、これを利用すると共に、必要な場所を選んで効率よく増設すれぱ、必要な拘置所の増設は10年以内には十分可能」という意見や(4d、「当連合会の試算(1994年)によれば、拘置所を全国で約60か所増設すれば勾留決定後の被疑者・被告人を全員収容することができ、この増設に要する費用は概算300億円で足りる」という意見もあります(7。
以上、本論では代用監獄の問題点・存続論についてそれぞれ書きましたが、ここで結論を出したいと思います。 論点は「冤罪の防止」を選ぶか「真相解明」を選ぶかという点になるかと思われますが、近代刑事法では「10人の犯罪者を見逃してでも1人の冤罪者をつくってはならない」という精神があります(9。 これは絶対冤罪を作ってはいけないという精神です。 また真相究明は本人の自白が全てではなく、それ以外の物証を集めることでも十分できると思われます。 以上のことを考慮すると「冤罪の防止」と「真相解明」の二つのうち「冤罪の防止」を選ばなくてはならないことは明白です。 また代用監獄廃止に反対する意見のiiについても先に示した通り、努力次第で費用は可能な範囲内に抑えることができると思われます。
よってこのレポートにおいて私は「代用監獄は廃止するべきである。」という結論を出します。