ひねくれた七夕物語

久万というのは50万都市松山から車で3時間ほどの山間部である。 都市部から離れているため空気が澄んでいる。 また都市部の明かりの影響がないため、夜には星がきれいに見える。 当然松山では決して見ることのできない天の川だって見える。 静かな山の中、澄んだ空気を吸い、少し冷たいそよ風を感じながら満天の星空を眺めていると、 都会での生活で傷ついた心が癒されていく。

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「わあ、きれい。これくらい星が見えるなら私の願いも叶うに違いないわ。」

そう言うと彼女はポケットの中からサインペンを取り出し、短冊に何かを書き出した。 そして庭にある笹の木にその短冊をつるした……。

その日は七夕であった。 七夕の日に願い事を短冊に書いて笹の木につるしておけばその願いが叶うという伝説はあまりにも有名である。 しかし私はそんな事は信じない。 それで願いが叶うのであれば私の身長はとっくに170cmを超えてるわい──と言う作者の愚痴は置いておき、 とにかく様々な人間が願い事を書いては天に祈るのである。 彼女のそんな人間の一人であった。

彼女の名は美樹。松山市西部にある某中学に通っているが、 この日は週末を利用して家族と久万の祖父母の家に遊びに来ていた。 普段2等星くらいまでしか見えない松山に住んでいる彼女にとって久万の星空は神秘的であった。 そのため彼女の心はときめき、こうして農家の庭先ではしゃいでいるのであった。

そんなところに一人の少年が現れた。 小学校の高学年と思われる。 そして彼ははしゃぐ美樹の姿を見た途端、

「いい歳して何やってんの?」

と半分あきれた口調で美樹に言った。 次の瞬間、彼の頭に金づちで殴打されたような衝撃が走った。 思わず手を押さえたところには大きなこぶができていた。

「あんたって本当に憎たらしいわね。少しは姉を尊敬しようという気持ちはないの?!」

すごい剣幕でそう言い放ったかと思うと彼女はほっぺたをふぐのように膨らまして母屋へと戻っていった。

「何だよ、そっちこそ少しは弟を可愛がってやろうという気持ちはないのかよ?!」

まだ少し痛みが残る頭を押さえながらそのつぶやく彼は隆、美樹の弟である。 この二人、本当は仲がいいはずなのだが普段はこうして口げんかばかりしていた。 昨日もどっちが先に挨拶するのかで殴り合い寸前までいったのである。

美樹に思いっきりぶん殴られた隆はまだ痛みの残る頭を手で押さえながら周囲を見渡した。 そして誰もいないことを確認すると、さっきまで美樹がいた笹の木の所にそっと近づき 美樹が書いていた短冊を見てみた。

「白鳥のようにエレガンスな女の子になれますように」

大声を出してはまずいと口をぎゅっとつぶって必死に笑いを我慢していたが、 それでもだんだん顔が真っ赤になり、とうとう隆は吹き出してしまった。

「ばっかじゃない。ハハ……何が……ハハ……エレガンスだよ。……ハハ。 なれるわけないだろ。身の程知らずとはこのことだ。今のレベルじゃフンコロガシよりも下だよ。……ハハ」

そして隆は笑いながらふとあることを思いついた。 そしてその思いつきに顔をにやつかせながらポケットからサインペンを取り出した。 そして再び美樹の短冊を手に取るとまた吹き出しそうになるのを我慢しながらその短冊の内容を書き換えた。

「これで少しは面白くなるかな。」

そう思うと隆もまた母屋のほうへ戻っていった。

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ちょうどその頃、天上では一人の女性が横に積まれた大量の書類の一枚一枚を眺めながら口を尖らせていた。

「何でアルとやっと会えたってのにこんな仕事をやらないといけないのよ。」

彼女は皆様ご存知の織り姫ことヴェガである。 彼女は目の前にある書類の内容に目を通しながら愚痴を続けた。

「なんで私たちのデートの時間を割いて下界の人間どもの願いを叶えないといけないの? だいたいお父様が悪いのよ。 世間の目があるからって毎年7月7日に私たちをデートさせるって公約したものの やっぱりアルが気に入らないからってこんな事させてデートを邪魔してるのよ。 たまったものじゃないわ。いつか絶対仕返ししてやる!」

「まあ我慢しようよ、ヴェガ。それでもこうして君と一緒にいられるんだからまだ幸せだよ。」

こう言ってご機嫌斜めのヴェガを慰めている心優しい男性はヴェガの夫、彦星ことアルタイルである。 この二人は毎年短冊に書かれた願い事の中から天の神が選んだものを一つ一つ叶えるという仕事を 強制的に天の神にやらされているのである。

「まだ45731件もある……やってらんないわ。こうなったらイタズラしちゃお。」

そう言ったかと思うとヴェガは近くにあった双眼鏡を手に取って地球のほうを覗き始めた。 そしてしばらくの間何かを探しているのか彼女はじっと地球を眺めていた、するといきなり笑い出した。

「ほら、見て見て。やっぱりあったわよ。いたずらして短冊にとんでもないことを書いてるのが。」

そういうとヴェガはアルタイルに双眼鏡を渡した。

「うん、確かにあれはひどいなあ。」

「あんなのを叶えてやったら結構面白いんじゃないかな?」

そう言うと彼女は道具箱の中から細胞組み換えステッキを取り出すと

「チャンゲミキズファセイントトゥヘピグズファセ!!」

と呪文を唱え全身の力をステッキに集中させた。 するとステッキの先から青白い閃光が地球に向かって走った。 アルタイルは双眼鏡で地球を覗いてみた。

「ねえ、いくらなんでもあれはやりすぎなんじゃないの?」

「いいの、こういうこと起こせばお父様の評判が悪くなるからいい仕返しになるの。 まあ、犠牲になった子には一年間我慢してもらいましょ。 来年にはお詫びとお礼をしてあげるわ。」

そうして彼女らは残された45731件の仕事をまたしぶしぶとやり始めた。

**********

久万の朝は冷え込む。山間部である以上仕方がない。 しかし同時に山間部であるため鳥のさえずりしか聞こえてこない。いたって静かである。 そして朝日の光が朝霧に当たって都会では見ることのできない幻想的な風景を作り出している。 静かで幻想的な風景、やはり心が癒される。

しかしそれも長くは続かない。久万の山の静寂は一人の少女の悲鳴によって破られた。

「キャー!!何、何なの、何が起こったの?私はどうしたの?」

美樹は自分の身に起こった出来事に驚いてあたふたとしていたが 何かに気づいたかと思うと急に弟の寝室に目にも留まらぬ速さで駆け込んでいった。

「これは一体どういうことなの?!」

気持ちよく寝ていたところを急に起こされて何がなんだか分からないまま隆は声のするほうへ顔を向けた。 そして次の瞬間、彼は目に映ったものが信じられず言葉を失った。 さっきまで寝ぼけモードだった彼の頭もすっかり覚醒してしまった。 そしてしばらくの沈黙の後、突然隆は笑い出した。そして笑いながら

「まさか本当に叶っちゃうとはねえ……。」

とつぶやいた。何が何だか全く分からない美樹は隆の肩を思いっきり揺さぶりながら隆を問い詰めた。 すると隆は笑いをこらえながら答えた。そうなのだ。昨日隆は美樹が母屋に戻った後にこっそりと

白鳥豚のようにエレガンスブサイクな女の子になれますように」

と短冊を書き換えたのである。そして運悪く不機嫌なヴェガが本当に叶えたのであった。

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「ねえ、遠くの方で何かあったのかな。さっきから外が騒がしいなあ。」

「さあ、近所の小学校で運動会でもやってるのかしら。 誰かが叫んでる声も聞こえるし、ピストルの音も聞こえるし……。」

と、のんきな会話をしながら美樹と隆の両親はトーストを食べながら朝食を楽しんでいた。 するとそこにバンダナで顔を隠した美樹が現れた。

「ど、どうしたの?」

妙な格好をしている美樹に彼女の母は問いかけた。

「う、うん、なんか最近こんな格好が流行ってるんだって……。 なんでも超有名歌手のアジがやってるらしいわよ。」

本当は豚のような顔になったのを隠すためにやっているのだが 彼女の母はそんな事情も知らず本当に流行ってると思い込んだらしい。

「そう。面白いものが流行るのね。最近の若い子のやることは分かんないわ。」

それを聞いて少しほっとした美樹は自分の席に座ると目の前に出されているトーストに手を伸ばした。 すると美樹の母は急に驚いたような顔になった。

「美樹、その手はどうしたの?!」

美樹は自分の手を見てみた。すると少しではあるが真っ赤な血がついていた。 美樹はあわてて

「あっ……、これ?ちょっと今朝鼻血が出ちゃって……。」

と、とっさに思いついたうそを言った。

「ふうん、そう……。それにしてもなんか今日の美樹変よ。」

「ううん、そんなことないよ。」

そういうと美樹は急いでトーストを食べるとあわてて外へと出て行った。

「やっぱり変ねえ。」

娘の行動が気になりながらも彼女は皿洗い・洗濯・……といつもの家事をし始めた。 そして掃除をしに隆の部屋に入った。途端、

「きゃーーーーーーーーーー!!!!」

再び静かな久万の山に悲鳴が鳴り響く。

「いったいどうしたの?!」

そこには血まみれになった隆の姿があった。 いや、血まみれだけではない。全身に打撲したような跡が無数にあった。 骨も何本か折れているようだ。また周りには何個か銃弾も残っていた。 隆は気絶をしているようで全く反応がない。息も虫の息のほどである。 彼の母はショックのあまりそこに倒れこんだ……。 そうなのだ。美樹は豚のような顔にされたことでキレて隆を半殺しにしたのであった。

そんなころ天上ではヴェガが一人ポテチを食べながらコミック『おまえんち(byけらびーこ)』を読んで笑っていた。


あとがき

ええ、管理人Oriosです。 2003年七夕の雷鳴鳴り響く中で書いた作品を添削(といってもほとんど書き直し)した作品です。 普段本嫌いのOriosがこんな分野に手を出してしまいました。 まあ、若いうちにいろんなことに手を出しておけということで。

で、今回の作品ですが、ひねくれた人間が七夕を題材にするとこんな作品になるということです。 もし純粋に七夕伝説を考える人がいらっしゃいましたらごめんなさい。 作品の出来ですが、客観的評価は別として個人的には自分らしい作品になったと思っています。

最後になりましたがこんなしょうもない作品(この謙譲は日本だけらしいが)を読んでいただきありがとうございました。

2003年7月26日
森 功(Orios)
leo814@theia.ocn.ne.jp
©2003 Isao Mori(Orios),All rights reserved.

さらに余談

あとがきPART2(といってもあとがきというのかな……)

(階段を駆け上がる音)
美樹 「どうしてくれんのよ!この顔!おまえのせいでこんなになったじゃないのよ!! おかげで学校のみんなからは馬鹿にされていじめられてフラれて……たまったもんじゃないわ!!」
作者 「まあまあ、本文中にもあったけど一年たったら元に戻すってヴェガが言ってたんだから我慢、我慢……。」
美樹 「一年がどんだけ長いかわかってんの!!あんただって柔○部の合宿が1年あったらいやでしょ!!」
作者 「ギクッ……、まあそれ相応に美人にしてあげるから……。」
美樹 「ほんと?」
作者 「作者の力を信じなさい。作者は何でも出来るんだから……。 『ワ○オニ』の作者『橋田○賀子』なんか芸の出来ない役者がやる役は殺したりするとか……。」
美樹 「ふうん。で、いつその場面は書いてくれるわけ?」
作者 「まあ、心配すんな。その話はいつか書いてやるよ。『銀河鉄道の夜』(by宮沢賢治)が完成する頃には……。」
美樹 「つまり永久に書かないってことじゃない!!あんたも隆と同じ目にあわせてやろか?!」
作者 「まあまあ、落ち着いて。ああ、同じ中学に通ってなくてよかった。通ってたら明日には殺されてたわな。」
美樹 「来年あんたの通う高校に編入してやる!!覚悟しとけ!!」
作者 「ふん、無理だね。作者は何でも出来るって言ったろ。本文中にこの記述すればOKさ。」
美樹は松山市中で一番成績が悪かった。
美樹 「何てこと書くのよ!訂正してやる!」
作者 「おい、よせ。」
美樹は松山市中世界中で一番成績が悪かっ良かった。
美樹 「これで私は○光学園に一発合格ね。」
作者 「そげなぁ……。」
美樹 「じゃ・あ・ね。」
(そういうと彼女は意味深な笑顔を浮かべて部屋から出て行った。)
作者 「やばいな……。今のうちになんか対策を練っておかないと……死ぬな。ハハ……(^^;」

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